東京を通過しない世代の働き方
TEAMクラプトン(山口晶、山角みどり、白石雄大)
神戸を中心に活動するTEAMクラプトンを紹介したい。ただ、彼らの活動は多岐にわたり、行っているのは、設計、デザイン、施工、DIYのサポート、イベントのプランニング、など。一言で表現するのは難しい。
彼らのアプローチは一般的なデザイン会社や工務店とは違う。普通は何か建築プロジェクトが進行する場合、条件設定をして、設計行い、工務店から見積もりをとり、材料代と人件費が積み上がってプロジェクト総予算が決まる。
ただ、実績の少ない彼らに相談されるのはそんな簡単なプロジェクトではなく、誰も手を出さないようなボロボロな物件や、超低予算なプロジェクト。しかし、予算が低いからってソリューションはなにかあるというのが彼らのスタンス。低予算であれば、その中で考え出せる方法論を導き出す。
例えば、既に運営されているシェアハウスのリビングスペースの改修と活性化の依頼を受けた。予算は数十万円の前半。普通に考えれば大きな成果が期待できることは考えられない。でもなんとかしたいという依頼だった。
予算がなければ人に参加してもらってDIYで作る、そして材料を出来る限り安く仕入れるという方法を考える。材料については、木の角材の廃材が大量に余っているのを見つけだし、それらを廉価で仕入れてくる。作業員は、シェアハウス入居者などに声がけをしてDIYチームを組成し、みんなで施工。入居者自らが参加してつくったリビングルームは愛着をもって使われており、まさかこの金額で出来たのかと驚くような完成度のものになった。
現在3人で活動を行っていて、リーダー格なのが建築家の山口 晶(アキラ)さん。兵庫県の生まれだが、中学からイギリスに留学し「自分は日本語がちょっと怪しいんですよね」と話す。
中学から大学(マンチェスター大学で建築を学ぶ)までイギリスで過ごし、そのままイギリスにいるかもと考えていたそうだ。大学でインターンをすることが必須だったので、せっかくだから一度日本でインターンしようかと思い、日本の建築事務所で6カ月間インターンを経験。直後に東日本大震災が起きる。被災地でのボランティアなどを経験した後、山崎亮さんの主宰するstudio-Lでインターンしたことがきっかけで、現在、TEAMクラプトンのメンバーとして活動を共にする、白石雄大さん、山角みどりさんと出会う。そして今は環境工学を得意とした設計事務所で働いている。
白石さんは、愛媛県の出身、大学で長野県に行き、大学院生の時に同じくstudio-Lでインターンをしていた。その後、関西に住もうかと考えていた矢先に山口さんに誘われて神戸に来る。今は、四国の食材が届く情報誌「四国食べる通信」のスタッフとして仕事をしている。月曜日の深夜に神戸港を発つジャンボフェリーにのって高松に行き、金曜日の夜にまたフェリーに乗って神戸に戻ってくる。
山角さんは横浜生まれ。その後、大阪→アメリカ→京都と引越し、その間studio-Lで働いていた時にインターンとして入ってきた山口さん、白石さんと出会う。現在は川西市役所で働いている。
つまり彼らは終身雇用的な就職は一度もしていないし、東京も通過していない。僕の世代は面白い仕事をするなら東京や大阪といった大都会で仕事を経験することが必須のような空気感があった。だが彼らは人の繋がりをベースに自分の居心地の良い場所を探しながら自ら暮らす場所をつくり出し仕事も生み出している。そしてその中で大都会に住むという選択肢は、その人と働きたいからという理由はあっても、大都会に仕事があるからという選択肢ではない。
「おじいちゃん世代はとにかく生きるために仕事をしていた。親の世代はモノを買って充足するために仕事をしていたと思う。そして僕らは共感できる目的がないと生きていけない世代」と彼らは言う。なんでも手に入る時代、だから「これ!」と共感できる考え方がないと生きていけないと言う。
つい先日、彼らは王子公園駅から春日野道駅にかけて続く阪急電車の線路下の高架下に拠点となる工房を構えた。ここから今後何が生み出されていくのか。
神戸の街をどう楽しくしてくれるか、今から楽しみだ。
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