【篠山】歴史地区でつくる、手仕込みのクラフトビール
丹波篠山ジグザグブルワリー
篠山の東の端、兵庫、大阪、京都の県境に接する山奥の小さな集落「福住」。
「丹波篠山ジグザグブルワリー」は、国の伝統的建造物群保存地区に指定され、風情ある町屋や古民家が点在するこの地区に醸造所を構える小さなクラフトブルワリーである。
そのビールは、手仕込みでこだわりぬいて醸造されているため、京阪神のクラフトビールファンからは「幻のビール」といわれている人気の一品。醸造はクラフトビールならではの「エールビール」が中心で、コク深い独特の飲み口が特徴。さらに、ろ過をしない製法で酵母が生きた状態でつくられているため、それぞれのビールが持つ個性と芳醇な味わいを楽しめるのも大きな魅力。
小ロット生産であることをいかし、ペールエール、IPA、セゾン、ヴァイツェン、ポーター、アンバーエール…など、小さなブルワリーとは思えないほどの多彩な味わいをつくりだしている。また、丹波篠山名産の黒豆を焙煎して使用したり、地域でホップを栽培したり、地域ならではのビールづくりにもチャレンジしてきた。大量生産のビールと違い、目の行き届く本当の「クラフトビール」だからこそできる、おいしいビールへの飽くなき探求が垣間見える。
醸造家の山取直樹さんは、とてもこだわりを持ったビール職人といっていいだろう。
最良の原材料の組み合わせや酵母、醸造方法や熟成時間など、これまでよりもさらにおいしいビールを目指し、よりよい組み合わせを毎回模索しながらビールづくりをおこなっている。だから、同じビールは二度とできない。
この福住地区で生まれ育ち、一度地元を離れたのちにUターンしてホームブルワリーからスタート。そこから研究を重ねて現在のブルワリーの形に辿りついた。
一番のこだわりは酵母。
原料にこだわるブルワリーは多いが、酵母にこだわるところは少ない。ビールの飲み口を支配するのは酵母であると考えている。微生物である酵母の使い方次第でビールの飲み口が決まると考え、10種類以上の酵母を使い分け、常に「元気な酵母」をつかうようにしている。今後は、地域で採取した自然酵母を使ってのビールづくりにもチャレンジしたいと語る。また、ジグザグブルワリーのビールは酵母が生きているので、個人の感想だが体に良いのだとも話す。山取さんは、ビール飲まない日があると体調が悪くなるのだそうだ。
手づくりで生産量が少ないため、丹波篠山ジグザグブルワリーのビールが飲めるのは、ビアイベントへの出店や周辺のビアパブや飲食店への樽の出荷が中心。また、小ロット多品種生産の強みを生かして、企業などに向けたオリジナルビールなども時々製造している。瓶商品も生産しているが、少人数で不定期での生産であるため、多くは生産できない。このように、現時点では飲むことができる場所は限られる。この辺が「幻のビール」たる所以であろう。(※イベント出店や取扱飲食店の情報などはWebサイトでご確認いただけます)
現時点では「幻のビール」であるが、今後の新しい展開にも意欲的だ。
ジグザグブルワリーの肝である「こだわり」を確保できる範囲で生産量を増やしながら、ブルワリーが歴史地区の地域活性化の一つの核となるような展開を考えている。
神社でのビアガーデンなどもその一つ。地域の若い移住者とともに、地域の歴史的な神社でビールを楽しむビアガーデンイベントを先日開催した。歴史的な街だからこそできるブルワリーの形があるのではないかと山取さんは話す。
今後は、古民家を活用した醸造所や地域酵母をまちづくりなども考えているそう。
これからの展開が楽しみなブルワリーである。