はじめての「山形ビエンナーレ」
※山形へ移住したライター中島による、山形で体験する“はじめて”の食べ物、イベントなどを記録するコラムです
9月25日、晴天の日曜日に「山形ビエンナーレ2016」は幕を閉じました。
「山形ビエンナーレ」とは、2年に一度開催される山形市の芸術祭です。山形出身のアーティストで絵本作家の荒井良二さんが芸術監督をつとめています。
第1回目「山をひらく」に続き、第2回目は「山は語る」がテーマ。アート・音楽・文学・ファッション・フードなど多彩なプログラムが展開された23日間でした。
市民サポーターとしてビエンナーレに何度か通い、多くの作品に触れ、イベントに参加しました。
楽しい体験だったと同時に、山形についてよく知ることができました。こころなしか、山形をみる目の解像度が高くなった気がするのです。なぜなのか。思い出を振り返り、その理由を考えてみました。
1)歩いて満喫できる、七日町の適度なスケール
山形ビエンナーレは、山形市の中心地である七日町をメインの舞台に行われました。七日町のシンボルである「文翔館」や、カルチャー発信基地の「とんがりビル」を起点として、そこから徒歩圏内に、いくつもの会場が点在していました。
複数の会場をめぐることで、必然的に七日町をウロウロするので、新しいお店との出会いがあったり、街の規模や雰囲気を体感できるのです (もうひとつのメイン会場、東北芸術工科大学でも多くのプログラムが展開され、そこには車で足を運ぶ人が多かったようです) 。
街を散策する際は、ナカムラクニオさんと山形市民のプロジェクト「MAP LABO.」による『ブックトープ山形』が楽しみを拡張してくれました。七日町に実在する食べ物やお店が登場する、マップ付きの短編小説集です。
会場のいたるところに「山の本棚」が設置され、ポケットサイズの『ブックトープ山形』がフリーで配布されました。小説を読んで、実際の景色とストーリーを重ね合わせる。小粋なまち歩き体験でした。
2)街から、山から、市民から、山形のエキスを濃く抽出してつくられた芸術祭
2014年、第1回目の閉幕から2年間、「みちのおくつくるラボ」としてアーティストと市民の方々がプロジェクトを立て、着実に2016年に向け準備を進めてきました。その成果物として登場した作品たちは、どれもが山形の風土を色濃く反映していました。
ミロコマチコさんの『あっちの目、こっちの目』は、「EHON LABO.」から生まれた作品です。周辺地域の人々から野生動物にまつわる体験を聞き書きし、それを受けて、ミロコマチコさんが動物側の視点でストーリーを書く。
さらにそこから“3D絵本”として動物の立体作品が誕生しました。山からそのまま降りてきたような風格がある佇まい。ノンフィクションのならではチカラです。
他にもたくさんの展示やパフォーマンスがありましたが、どの作品も山形のエキスを原材料とし、ディープな山形を象っていました。
「山は語る」というテーマに習い、出会ったものに目を凝らして、耳を澄まして、語りを受け取る。そこからは、モノゴトの内側をじっと見つめる、山形の芯の強さを感じました。
3)アーティストとの距離がとっても近い
作品から“芯の強さ”を感じた一方で、全体的には適度な“ゆるさ”が心地よかった印象です。ビエンナーレの象徴である、荒井良二さんのキャラクターが作用したのかもしれません。「ちょっと寄っていきなよ」とクイッと引き寄せられるような、親しみやすさ。
とにかく、アーティストとの距離が近かった。アーティストが七日町や会場近辺を気ままに歩いていたり、イベントの前後には、参加者が気軽に話しかけるシーンを何度も目にしました。
「BARミチノオク」も、アーティストや山形のユニークな人々との大きな接点となりました。山形界隈の個性的でクリエイティブな人たちが日替わりマスターとなるお店です。七日町にある老舗漬物店のお座敷で、お酒を飲みながら世間話ができる、人との出会いが楽しい空間でした。
クロージングイベントとして行われた「その場小説」では、いしいしんじさんが声に出しながら即興で小説を書き、それを受けて荒井良二さんがカラフルなアートを、野村誠さんが音を奏でました。
途中からは見ていた子供たちも飛び入り参加。芝生を駆け回り、音を出し、セッションの輪がどんどん広がっていきました。芝生広場が透明なベールに包まれているような、多幸感に溢れる、忘れられない光景です。
最終日の日曜日は見事な秋晴れでした。空は高く開放的な時間が流れていて、2018年に続く大きな橋がかかった気がしました。ちょっと気が早いですが、すでに2年後が楽しみです。
山形ビエンナーレのプロデューサー宮本武典さんによるコラム「みちのおく百景」 では、山形ビエンナーレのこれまでの歩みや会期中のさらなる様子がお楽しみいただけます。
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