ガラスと、住む街に向き合う。ダメ元でも、やるからには本気で。
ワタリグラススタジオ 長谷川渡さん
荒波立つ日本海に面しながら、山も近く自然は目と鼻の先。海の幸と山の幸に恵まれながら、晴れた日には夕日も見渡せる越前海岸。訪れた人は、誰もがその美しい風景に心を奪われるでしょう。
「ワタリグラススタジオ」は、そんな越前海岸沿いの高台にあるガラス工房です。
工房長の長谷川渡さんが、実家の隣町である鮎川町にワタリグラススタジオを始めたのは、2011年。それまでは、福島や川崎、静岡、台湾など、国内外の工房で経験を積んできました。
「見知らぬ土地にいても、いつかは地元に帰って工房を作るつもりだった」という長谷川さんですが、過疎化が進んで閑散としてしまった街で工房を構えても、成功できるという確信はなかったそう。「ダメ元ですよ。でも、やるからには本気です。」
工房には、自身の作品の制作の場だけでなく、地元の人や観光客が楽しめる体験教室や、ちょっと休憩もできるギャラリー、座ってゆっくり海を眺められるテラスも設けました。
最初のうちは、「ギャラリーの商品はまったく売れないだろう」と予想していましたが、海をモチーフにした幻想的で心を癒す作品が観る者を惹きつけ、越前海岸を観光で訪れた方が旅の記念にと作品を購入してくれることが多いそうです。
また、毎年5月のGWにはワタリグラススタジオ主催の「海の手しごと市」が開催されます。さわやかな潮風を感じながら、クラフトあり、ごはんあり、ライブありの人気の高いイベントには、県内外から毎年多くの人が訪れています。
元は、クラフト市をしたいから場所を貸してほしいという友人からの声かけがきっかけだったそうですが、「やるなら、ちゃんとしないと。」という長谷川さんの熱い想いによって、デザイナーや実家のある大丹生町の青年会の人たちが集い、毎年進化を遂げながら継続しています。
さらに、今年、越前海岸の福井市のエリア(鷹巣、棗、国見、越廼、殿下)の有志によって「福井市越前海岸盛り上げ隊」を発足。長谷川さんもそのメンバーの一員として奮闘中です。
「年の近い人同士は仲良くなりやすいし、いろいろ協力もしてくれるけど、世代が離れると同じ地元でも理解してもらいにくいこともあるんです」といった悩みもありますが、「地元に残る空き家や、この街に住んでもらうための仕事の確保など、いろいろと何とかしたいことはたくさんある」と意気込む長谷川さん。
優しく、穏やかな口調ながら、芯は熱く、やるといったら覚悟を決めて取り掛かる心意気が、まわりをも動かしていくのだと感じました。
越前海岸をドライブする際には、長谷川さんのガラス作品と想いに会いに、ぜひ立ち寄ってみてくださいね!