「御殿堰」のすがおを巡る
山形市のぶら〜り堰散歩 vol.1
山形市の歴史ある「堰(せき)」をたどりながら歩く、1時間の散歩コースをご紹介します。
はじめまして。まち歩き、この道五年。山形大学の大学院1年、太田宗一郎と申します。
いつものごとく山形市のまち歩きをしていたある日、水の流れる音が聞こえてきました。せせらぎに誘われて歩いていくと、そこには趣ある水路が流れていたのです。
それ以来、水路をたどって歩くことに目覚めてしまい、いつもの散歩が何倍も楽しくなりました。
きょうの散歩コースでは、江戸時代初期に山形城下に造られた用水路、「御殿堰(ごてんぜき)」をたどります。
山形市街は、芋煮で有名な馬見ヶ崎川の扇状地。その馬見ヶ崎川から水を引いた山形五堰のひとつが御殿堰です。
完成から約400年を経た今もなお、人々の暮らしや田畑を潤しています。
山形市のメインストリートの一つ、七日町大通りに、「七日町御殿堰」があります。せせらぎに漆黒の和風建築という、趣深い空間ですね。
この御殿堰、上流や下流はどんな姿になっているのでしょうか。そして、七日町大通りから一歩踏み込むと、どんな情景が広がっているのでしょうか?
そんな冒険心に誘われて歩けば、まちや堰は、いつもとちょっと違った表情を見せてくれるはずです。
【ルート】
赤色のラインは堰さんぽのルート、青色のラインは御殿堰の主な流路です。
【Point1~14】まで、約1時間のコース。
大通りを歩くだけでは物足りないという方、山形のディープなスポットを覗いてみたいという方におすすめです。
それではいざ、堰さんぽへ!
【Point 1】山形県社会福祉研修センター脇
「ここは御殿堰(ごでんぜき)です」という看板が。
並木の桜が満開になると、もっと素敵な風景になりそう。この先の生活感あふれる水場も必見です。
【Point 2】大通りと交差
御殿堰は道路からいったん離れますが、信号のある大通りで姿を現わします。
やや急流で、山への近さを感じます。写真奥には、竹やぶと【Point 1】のセンター棟。
【Point 3】うなぎ・郷土料理〈あげつま〉脇
趣深い〈あげつま〉の建物から、うなぎの香ばしいスモークが一面にたちこめています!
地元の方に聞いたお話ですが、何十年も前、御殿堰が増水するとこちらのうなぎが生け簀から抜け出てしまい、下流の旅籠町あたりに流れてきたんだとか…。
【Point 4】専称寺の境内
〈あげつま〉から道を下るとお寺がいっぱい。それもそのはず、この周辺は城下町時代の「寺町」で、専称寺は「寺町」の中心だったのです。
それにしても、なんと心癒されるせせらぎでしょうか…。
【Point 5】お地蔵さまの見えるせせらぎ
いったん東西へ走る道路に出て、小さな交差点を曲がると、ふたたび御殿堰と出逢います。
車に気をつけて、上流を覗いてみると…小さな橋の上にお地蔵さまが!
【Point 6】建昌寺前
せせらぎを頼りに、広い道からふたたび細い道へ入ると、ここにも御殿堰が。
上流を望むと、家々の隙間を縫って流れを広げています。
土地の傾斜に沿って水が段々と下ってくる様子が手に取るように分かり、やっぱりここは扇状地なのだなあ、ということを再認識します。
【Point 7】〈赤鬼〉と御殿堰
街の賑わいが近づいてきました。かつて「紅花通り」と呼ばれていた通りに、趣のあるお店が立ち並んでいます。
〈赤鬼〉もそのひとつで、夜ここでラーメンをすすっていると、御殿堰のせせらぎが聴こえてくるとか!
ここで御殿堰を探すヒントは〈赤鬼〉、茂み、ガードレール。小さく深い渓谷が、まちのなかを人知れず、ひっそりと流れています。
【Point 8】七日町仲通りの暗渠とプレート
七日町仲通りに出ました。さて、御殿堰はいったいどこを流れているのでしょうか?
水面は見当たりませんが…。駐車場の片隅のプレートが、ていねいに教えてくれました。『ここは御殿堰です』
【Point 9】七日町御殿堰
冒頭でご紹介した「七日町御殿堰」の親水空間まで来ました。上流から見る風景もいいですね。
しかし御殿堰の「すがお」も忘れてはいけません。
施設のちょっと上流には橋があって、右の写真の渓谷のような姿もしっかり残っています。
【Point 10】〈Oiseau Bleu Yamagata〉〈十一屋〉の間の暗渠
さて、再び御殿堰はどこに? 七日町大通りの向こう、この春オープンした結婚式場〈オワゾブルー山形〉と菓子店〈十一屋〉の間に、細い道があるのみ…。
この地図にも載らない道の下を、御殿堰が流れているのです! 大通りの横断は、近くのスクランブル交差点から。
【Point 11】更地のカギ型水路
そのまま側溝に沿って歩いてゆき、信号を渡ると、びっくり!
突然、更地にカギ型の御殿堰が現れます。かつては建物があったので、その下をこうして流れていたのでしょう…。
道路拡張の対象区域なので、見るなら今がチャンス?
【Point 12】旅籠町の水路
再び御殿堰が顔を出しましたね。下流になると、水量も少し下がるようです。
お花がせせらぎのアクセントになっていますね。
ずいぶん下ったので、堰さんぽもそろそろ終わり…
【Point 13】分岐した御殿堰
まだ終わっていません! じつは御殿堰、地面の下で【Point 11】から12・13の二手に流路が分かれていたのです。
【Point 13】は山形市西部の田畑を潤しています。ここもひっそりと流れる穏やかなせせらぎが、心地よい場所です。
【Point 14】〈まめや〉脇の御殿堰
ついに最後のポイント。東西に流れていた御殿堰が大きくカーブし、富貴豆の〈まめや〉のあたりで通りと交差します。流れが浅くゆったりしてきました。
御殿堰はこれから西の田畑を潤しにゆきますが、散歩コースとしては、このへんでお別れです。
さて、御殿堰の堰さんぽ、いかがでしたか?
大通りに沿ってヨコ(南北)に歩きがちなまちを、堰に沿ってタテ(東西)に歩いてみました。
なかなかディープな場所がいっぱいで、何度歩いても新しい発見があるものです。
堰さんぽは、恥ずかしがり屋な堰との、出会いと別れの繰り返しです。
ですが、せせらぎに耳を澄ませば必ずまた出逢うことができます。
皆さまもぜひ山形で、堰のすがおにフォーカスしてみてください。
【プロフィール】
太田宗一郎
山形大学大学院社会文化システム研究科1年。日本文学(古典)を専攻。大学生時代からまち歩きと資料収集を通して、山形市街における近世・近現代の土地の記憶をさぐる。山形県東根市出身。