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放棄田も解消 小さな村の再生物語 (前編)

古民家宿きっかけに広がる人の輪

 村の空き家に明かりが戻り、耕作放棄地が再生し、手入れされなくなった山には森林ボランティアが訪れるようになった-。そんな奇跡のように息を吹き返した小さな村が、兵庫県篠山市内にある。

 6世帯21人が一つの家族のようなつながりをもって暮らす篠山市丸山集落。そこには築100年を優に超える古民家が田園風景に点在する。農村の原風景の中に身を置くと、自分自身のルーツに出会ったようなひどく懐かしい気持ちになる。

 かつてここは12軒中7軒が空き家だった。そこに神戸から名店のシェフが訪れてレストランを開き、こだわりの農業をしたい人たちが田畑を耕しに来るようになった。

 存続の危機に直面していた村がどうやって蘇ったのか-。転機は2009年、築150年以上の茅葺き古民家を改修し、村人らが一棟貸し宿「集落丸山」を開業したことに遡る。

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重厚な古民家が建ち並ぶ兵庫県篠山市丸山集落。初夏は田植え、夏は深緑の稲に覆われ、秋には黄金色の稲穂の上を赤とんぼが飛び交う。村人の農業の営みそのものが、農村の原風景を作り出す。

 

 丸山集落は、篠山市役所から車で7分ほどの場所にあり、中心市街地からはそれほど離れてはいない。それでも、谷あいの最も奥に位置するからか、村に入るとタイムスリップしたように外部から緩やかに隔たれ、独特の雰囲気に包まれる。

 ここに古民家の一棟貸し宿が開業したきっかけは、村の将来を考えようと開かれたワークショップだった。村人だけでなく、大学生や行政関係者らも集まり、都市部に移り住んだ元村人たちも駆けつけた。

 

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小さな小屋は、「灰屋(はんや)」と呼ばれる肥料小屋。戦後、化学肥料が普及するまで、農村ではこういった小屋で落ち葉や野菜くずを焼き、灰を肥料にしていた。かつて全国にあったが急激に姿を消した。篠山市内では各地に残り、道具小屋として使われている。
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春が訪れると、里は花盛り。草を刈り、花が植えられ、手入れの行き届いた里は、尊く美しい。

 

「静かで空気がきれい」「生き物がいっぱいいる」

 ワークショップでは、丸山の魅力は、文化や暮らし、田畑や風景、古い民家など、今も脈々と受け継がれているという意見が多く出された。当時、村は12軒中7軒が空き家、耕作放棄地が増え、山の手入れをする人もほとんどいなくなっていた。都市への人材流出などで、輝きを失ったかに見えた村だったけれど、外から来た人の目には磨けば光る宝が眠る豊かな土地だった。

 人々の営みや風土が生み出したこれらの地域資源を、再び人々の暮らしの糧にし、後世に受け継いでいく-。次第にそんな壮大な夢が共有された。

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江戸中期、水源を守るためにできたという丸山集落。集落の奥地には、今も水源地があり、集落には清流が流れる
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村を流れる小さな水路。昔ながらの土の水路には、たくさんの生き物が生息している

 

 その第一歩として、空き家3棟を改修して宿にするプロジェクトが動き始めた。当時、自治会長を務めていた佐古田直實さんは「村にとって空き家は〝負の遺産〟。それを〝残すべき遺産〟として活用する発想はまったくなく、驚いた」と振り返る。

 開業に当たり、一般社団法人ノオトと村人でつくるNPO法人が有限責任事業組合(LLP)を設立。2009年に一棟貸し宿「集落丸山」ができた。こうして夢が実現に向けて動き出すと、共感し支援したいという人の輪が次第に広がり始める。

 開業に合わせて、丸山の自然に魅せられた神戸の人気フランス料理店のオーナーシェフが篠山に転居し、土蔵でレストラン「ひわの蔵」を開いた。丸山に以前からあったそば懐石店「ろあん松田」と共に、多くの雑誌やテレビで紹介され、20人ほどが暮らす小さな村に、多くの人が訪れるようになった。

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村の長老的存在の佐古田直實さん。訪れる人を懐深く、受け入れる

 

 「実は始めのうちは、こんなんでええんやろかと疑心暗鬼やったんです。こんな田舎で、私たちにとっては日常で特別に何もないしねえ」と佐古田さんは打ち明ける。「でもね、来た人がええところやとえらく喜んでくれて、それで村の人もこれでええんやと少しずつ自信が持てるようになってきたんです」

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水路脇を彩るスイセン。「村に来る人がいるからね。家内がこういうのもちょっと植えてみようかって」と佐古田さんは話す

 

 この頃になると、だんだん村人が、訪れる人のためにちょっと草刈りをするようになったり、畦に花を植えるようになったりと、小さな変化が起こり始める。お年寄りが多い村に、そんな元気が戻ってくるようになった頃、村に新たな好循環が生まれ始めた。〝負の遺産〟だった空き家を中心に巻き起こった新たな風。その風が、今度は荒れた山や放棄田へも波及し始める-。(後編に続く)

〈後編はこちら

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