「金沢らしい菓子」と「金沢人」。
にし茶屋街にいったら「諸江屋」でかき氷を!
「寛永」「文化」「文政」「天保」「嘉永」etc.。
金沢では、創業に江戸時代の年号を冠する老舗は少なくありません。
今回ご紹介する「落雁 諸江屋」もそのひとつ。嘉永2年(1849年)創業。「落雁(らくがん)」をこしらえる和菓子店として160年もの間、看板を上げ続けています。
美味しい和菓子屋さんは市内に数あれど、「金沢らしい和菓子屋」と聞かれると、私の場合、まず諸江屋さんが頭に浮かぶのです。
それは単に老舗だからだとか、金沢銘菓だとか、そんなことでなくて、しいていうなら歴史も風習もまるっと背負う「菓子への向き合い方」が金沢らしいというのかー…。
ということで、今回は「にし茶屋街」にある店舗「西茶屋菓寮」にて、冷た〜いかき氷をいただきながら、「金沢らしい菓子とは」「金沢人とは」など、とりとめもないお話を社長にうかがってきました。
(ちなみにカフェがあるのはこちらの店舗のみ。諸江屋さんは落雁屋さんなのですが、カフェオリジナル甘味の本気度もすごいんです…!)
社長である諸江隆さんは「落雁 諸江屋」の7代目で、歴史や芸事にも通じた旦那衆であり、生粋の金沢っ子です。現在会長を務める5代目・諸江吉太郎さんも『加賀百萬石ゆかりの菓子』や『お献立本 金沢の台所主人』を監修されたりと、代々金沢の食文化の編纂にも尽力されています。
(以下インタビュー)===========================
「大きく“和菓子”というカテゴリーで切ってしまうと、日本全国どこへ行っても和菓子は和菓子であって、大差ないと思うんです。なにせ材料がシンプルですから、それぞれ産地はあるにしても、それほど大きくは変わらない。
では、和菓子で大きく差が出るところはどこかと言われたら、それは『その街の在り方』なんじゃないかと思うんです。
例えば普段の食事、朝ご飯、昼ご飯、夜ご飯。菓子はそれに関連して隙間のどこかに入ってくるもの。だからこそ、その街の菓子はその街の味に合わせないと」
「金沢はもともと、味の濃いものを好む街ではありません。けれど同時に、しっかり塩が効いていたり、辛さが立っていたり、出汁も昆布より鰹だったり、『はっきりとした味』を良しとするところはあります。
金沢の人の舌に合う菓子とはー…。そんなことを大きく頭で考えてもモタモタ(*1)になるだけ。そうではなくて、大切なのは自分自身が『金沢人』であること、日々の暮らしを通して舌が『金沢の味』になっていることだと思うんです。その感覚をもって『この菓子は美味しい』と思えたら、ほんでいいんやと思います」
(*1)モタモタ…金沢弁で、ごちゃごちゃ・乱雑になっている様子。
「最近では、観光にいらっしゃるお客様で『初めて落雁を見た』とおっしゃる方も少なくありません。
金沢はまだ茶の湯を嗜む文化が残っていますが、全国的に見れば茶道人口は減少の一途をたどっています。お茶と落雁は切れない関係にありますから、目にする機会が減っているのは当然です。
だからこそ、『かわいい、きれい』に訴える。それは菓子屋の本分としては間違っているかもしれない。けれど、派生から入って本流に触れてもらうということも、落雁を未来に伝えるためにやらなくてはならないと思っています」
「私はシャバを悪くしたのは携帯電話やと思っとります。金沢弁で言えば“せわしななった”(*2)。だからこそ、かえって茶の湯のような異次元を自分から求めていかないとバランスがとれなくなるのではないでしょうか。余裕や遊びがないと、人はすごく脆くなる。
(*2)せわしない…金沢弁で、気忙しい、落ち着きがない、慌ただしいの意。
私は特別お茶の稽古に通っているという訳ではありませんが、金沢では茶の湯は仕事の中、暮らしの中に自然と組み込まれてきますから、あらかたの作法はわかっているつもりです。「作法」というと堅苦しく感じてしまうかもしれませんが、個人的にはゲームのルールと一緒だと考えていて。将棋だって、ルールがないと面白くない。作法というルールからは“所作の美しさ”が生まれ、そして型を守るうちに、後から“思いやりの気持ち”が不思議と湧いてくるように感じるのです」
「最近はよく『国際人になれ』と言われますよね。でも、例え10カ国語が話せたとしても、“あなたは一体何人なの”というアイデンティティがなければ、国際人とは言えないと思う。
話は大きくなりましたが、つまり、“金沢人は金沢人たれ”ということ、“金沢の菓子屋なら金沢らしくあれ”ということに尽きると思うんです。そして金沢人であるならば、『本物の日本が観たければ、金沢に来い!』と言い切れるくらいの、意気込みを持たなくてはならないと思う。
それは無理して持つものではなく、この街で仕事していると、自然とそう思うようになっていくし、私自身“金沢が好きやー”という気持ちが年々強くなっています」
「金沢は“当たらず触らず”の人間関係を保っていると、たぶん面白くない街だと思います。テリトリーに人が入ってくることを拒まず、自分の城郭をどんどん小さくしていくと相手の城郭の中にも自分の居場所ができたりする。確かに金沢は小さな街やし、いじっかしい(*3)とこもあるかもしれませんが、それは金沢人特有の「ちゃべちゃべ(*4)」やと認識して、分けて考えておれば良いのです。
(*3)いじっかしい…金沢弁で煩わしい、うるさいなどの意。(*4)ちゃべちゃべ…金沢弁でおしゃべりなさま。
自分の居心地の良い場所は必ずどこかにある。そこを見つけられて初めて、『金沢人』になるのではないでしょうか」
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若輩者の私には、まだ「金沢らしさとは何か」を言語化することは到底できないし、風雅を解す「金沢人」からはほど遠いけれど、
心のこもったお菓子をひとつ食べるごとに、真摯な仕事に触れるたびに、少しずつ、何かを受け取っていたのだと、改めて感じたインタビューでした。
金沢にいらした際は、ぜひ諸江屋さんの甘味から「金沢」を感じてみてくださいね。かき氷は夏季限定ですのでお早めに。