【香川】離島の乳児院がゲストハウスに mammaオープン/豊島
神戸のライタースクールに参加してくれた方がreal localのライターとして記事を執筆してくれました!
今や使われていない物件をリノベーションしてゲストハウスにするという事例は全国に多数ある。空きビル、古民家などに新たなコンセプトを加味したニュースポット。しかし乳児院をゲストハウスとして再生させた事例は、全国で初めてではなかろうか。それも離島で。
今年8月6日に、人口およそ800人の香川県の豊島(てしま)でプレオープンしたmamma(マンマ)は、元・乳児院。戦後の戦争孤児たちが生活する場として立ち上げられ、2015年まで使われていた歴史ある建物を再生したゲストハウスだ。
乳児院としての機能が都市部に移転し、約70年の歴史に幕を降ろし、建物を取り壊す議論が持ち上がったが、存続を求める島民の声を尊重し、ゲストハウスという形で維持をしていくことになった。
mammaの名前の由来は、イタリア語の「お母さん」という意味でもあり、「誰もがありの“まんま”居られる場所」というコンセプトを表現してもいる。
2010年に開館した豊島美術館の存在を筆頭に、「現代アートの島」として観光客が増えている昨今の豊島では、宿が求められている。
さらに島民も気軽に集えるカフェや飲み屋の需要も潜在的にあるようで、mammaは、観光客や島民の交流拠点としての期待も高まっている。
先日行った島民向けの内覧会の折には、100名を超える島民がmammaに訪れた。
一度廃墟のようになっていた場に、新たな命が吹き込まれ、時計の針が再び動き出した瞬間だった。
mammaの立ち上げメンバーは、全員が移住者。群馬、千葉、兵庫、大阪の生まれ。
世界中をバックパッカーとして旅していた者、京都大学でオーケストラの指揮者をしていた者、日本とアフリカで看護師をしていた者など。
「ありのまま」というコンセプトを体現するため、あえて肩書きを設けていない。皆が、肩書きではなく、その名前のまま存在している。
筆者は岡山の山村の廃業していた温泉宿をゲストハウスとして再生させた経験から、mammaの立ち上げに関わっている。
同じ田舎でも、離島での挑戦はハードであった。
改装の面では、工事業者大半が船で渡ってくるので、時間もお金もかかる。
仕入れにおいては、小さな商店がいくつかあるだけなので、日々の食材調達に一苦労。
「全国送料無料」のネットショッピングでは、「但し離島は除く」の離島である。急なお客様に応じてお肉を買い足そうと思っても、そう簡単に手に入らないのだ。
大工不足をカバーするため、mammaのスタッフも設計事務所のスタッフも、DIY三昧。建物自体が古いので、来る日も来る日も大工仕事。
そんな困難を都度乗りこなし、ようやく8月頭に宿泊部門とカフェ&バーをプレオープンした。
mammaの特徴である銭湯部分を含めたグランドオープンは8月末から9月頭を見込んでいる。
ちなみにこの銭湯が作られたスペースは、乳児院時代に子どもたちが日光浴するサンルームだった場所。
ガラス張りで、ガラスの向こうの山肌が見える、かつてのサンルームの存在を意識したデザインだ。
宿泊として使用する部屋は、保育士が寮として使用していた場所だ。
乳児院時代に使われていたベビーベッドは磨きあげ、銭湯の脱衣所でよみがえった。
客室の照明のシェードは、豊島の保育所の子どもたちと一緒につくりあげた。
離島は困難が多いが、それ以上に良さもたっぷりとある。
観光客は増えているが、公共交通機関はほとんど整備されておらず自転車移動がメイン。ゆったりとした時の流れの中で自然を感じることが出来る。
穏やかな瀬戸内海、のんびりと道に寝そべる猫、季節によって移り変わるびわやレモンなどの果実…。
旅先に豊島を設定すると、必ず1日10本にも満たない限られた本数の船に乗る必要がある。
船に乗り、我が身が陸から一度離れる経験というのは、日常の自分をリセットするような特別な感覚だ。
mammaに到着したら、旅の荷物も日常の肩書きも全部おろして、ありのままの姿でリラックスして過ごして欲しい。