【長野】開店まで4年間の想いと美味いビール THE FARMHOUSE/山ノ内町
ビールのIPAがたまらなく大好きだ。IPA=India Pale Aleの略。ホップの香りが豊かで苦味もあり、アルコール度数も高め。以前スキーで訪ねた志賀高原で飲んで、「やっぱ雪山のビールは、これくらガツンと来るのがいいよなぁ」と思ったものだ。そのとき飲んだのは、山ノ内町の酒蔵・玉村本店が造っていた志賀高原ビールのIPAだった。
その志賀高原ビールが2017年6月に通年営業のバー&レストラン「THE FARMHOUSE」をオープンした。瀟洒な洋館は渋沢栄一の孫が東京に建てた物件を移築したもの。志賀山文庫という資料館として使われていたが、2007年に閉館。その後は玉村本店が所有したが、特に使われることもないまま時は流れた。
2013年。ビール関連の仕事に携わっていた金久保亜理沙さんは、独立に向けて東京でコック修業をしていた。その彼女にに知人友人たちが「読め!」と言わんばかりに次々とあるブログの記事をシェアしてきた。それは玉村本店の8代目で志賀高原ビールの醸造責任者でもある、佐藤栄吾さんが書いた「パートナー求む!」という志賀山文庫を活用してほしいという記事だった。
東京での激務で体を壊した経験から田舎暮らしをしたいと考えていたこと。彼氏と別れ、当時勤めていた職場は退職予定だったこと。金久保さんにとって、今すぐ長野に行けない理由はない。すぐに佐藤さんにメールを送り、自分のプランを売り込んだ。
その甲斐あって社員採用されたものの、やることはビールや酒のラベル貼りや商品出荷などの作業。やっとスキーシーズンのみ営業するビアバー「TEPPA ROOM」を任されて業績も上げたけれど、志賀山文庫の話は進展なし。もしこの話がダメだった場合、改めて独立を目指すなら機動力のある30代後半までにと考え、「今期進展がなければ辞表を出そう」と、40歳という年齢が近づいてきた2016年の冬に決心した。メールを送ったときから4年経っていた。
やっと金久保さんの思いが届いたのか、2017年ようやく志賀山文庫で開店のゴーサインが出た。
夏の営業開始まであまり時間がなかったにも関わらず、金久保さんにはお店の“絵”が見えていたのだろう。
「旅が好きだから、料理は洋風とアジア、時々山ノ内テイストで」
「観光客だけでなく地元の人にもフォーカスしたクロスオーバーな店」
「バリスタのコーヒーも出すし、ビールを飲まなくてもOK」
一見何でもありなコンセプトにあるのは、いろんなシチュエーションで、いろんな人に使ってほしいという思い。「近所の旅館の社長がカウンターで飲んでいる横で、外国人のお客さんが飲んでいたりするんですよ」と金久保さん。観光業に携わる地元客に愛されることで、「あの店はいいですよ」と観光客にも勧めてもらえる。そんな化学反応が起こるのも楽しみだという。
火曜の休みとランチがない水曜以外は昼12時から夜23時まで営業。たった3人のスタッフで料理も接客もこなす。ビールは定番や限定も含め13タップ。ワインも日本酒もあり。知り合いの店から仕入れるもの以外は手作りした酒に合う料理を出す。デザートも作る。コーヒーもこだわる。
なかなかハードな営業スタイルだけど、3人が楽しそうなのは、自分のお店を持ちたい、バリスタ修業をしに海外へ行きたいという次のステップがあるから。目の前の金久保さんがそれを叶えた好例というのはきっと大きいはずだ。