【長野】地元で愛される100歳の映画館 長野相生座・ロキシー/長野市
都心に住んでいたときは思いもかけなかったが、地方に暮らしてじんわりと効いてくるのが“文化との接点”の少なさ。とりわけ「ミニシアター」で上映されていた知的好奇心をそそる映画を観て90年代を過ごした世代としては、だ。
ここ、長野相生座・ロキシーは3つのスクリーンを持つ単館系の映画館だ。実は支配人の田上真里さんにうかがうまで知らなかったが、日本最古の木造建築の映画館だと言われている。明治25年(1892)に建物が造られ、明治30年(1897)に活動写真(シネマトグラフ)を初上映、会社としては今年100周年を迎える歴史がある。
意外な話だが、長野市内には4館15スクリーンもあり、これは映画を観る環境としては地方都市の中でも恵まれているそうだ。そのなかで権堂というレトロな商店街の中にあり、建物は築125年でお世辞にも設備が最新とは言えないこの映画館。田上さんにどのような特徴のラインナップを組んでいるのかをうかがった。
「通ってくださるお客様を思い浮かべて、こういう映画を好まれるだろうな、というのを選んでいますね。例えばマダムのお客様はちょっとおしゃれな映画を楽しまれるかな、とか、長野県人は真面目な気質なので社会性のあるテーマの映画とか」。常連客でひとりで観に来る人も多いが、大学生カップルが映画を楽しんだ後に、メンバーズ会員に申し込んでくれたときは本当にうれしいのだとか。
また小さな映画館だからこそ、映画製作者たちとの距離感も近いのも特徴的。2017年の1~8月で開催した舞台挨拶は27回! しかも映画製作者側からのオファーが多いそう。質疑応答でシーンとなるのは寂しいものだが、この館ではお客さんが積極的に手を挙げているという。映画好きが集まっているのだなとわかるエピソードだ。そして通常の上映のほかに、市内の学校による貸切上映なども対応しているそう。例えば修学旅行先の予備知識となる映画といったリクエストにも応えている。
「うちの劇場の存在意義って、そういうことなんです」
田上さんはそう語った。忘れられない映画体験をする「場」としての映画館。今年は100周年とあって、12月25日には無声映画の活弁上映といった特別な企画も予定されている。長野市育ちの田上さん自身がこの映画館で子供の頃に初めてみた作品は『E.T.』だったそう。
いまは地方でもネット経由で映画はいくらでも観ることができるが、こんな映画館が100年以上も存在し続けているというのは、町としてとても誇らしいことだと感じた。