糸島のおもしろ空間請負人
インテリアデザイナー・神武 豊さん
神武(こうたけ)豊さん(38歳)は、店舗や住宅の内装プランニングから施工までほとんどの工程を一人でやり上げる。また「アコーデオン」ブランドで家具や小物を作り出すプロダクトデザイナーとしての側面も。
近年手がけた店舗だけでも、珈琲豆焙煎所COFFEE UNIDOS、アウトドアショップGOOD DAILY HUNT、ゲストハウスいとより、カフェふたつぶなど、どれも糸島の注目スポットばかり。佐賀・古湯温泉の“泊まれる図書館「暁」” の築110年の古民家修繕も行った。
作為を感じさせない仕事
神武さんの持ち味の一つは、まるでずっと前からそこにあるような仕上げ。
見ようによっては「どこに手を入れたの?」なんてことになりそうな、作為を感じさせない造作のできる大工さん、そう多くない。
一方でこんなインテリアも。
いずれも現場対応や店主とのやりとりの中で生まれたアイデア。これができるのも直で請け負うから。下請けはやらない。スタートして8年、自然にそんなスタイルが出来上がった。
神武さんは毎週水曜の一日だけカフェ店主になる。実家の工房の一部を改修して5年前に開いた喫茶「アコーデオン」。
「カフェ営業することで外に開いていける。カフェが仕事の入り口ですね」
実際、来店をきっかけに仕事を依頼するお客も多いという。店内いっぱいに詰まった神武ワールドに魅了されるのだ。
「物件の状況やお客様のやりたいことに逆らわず、どんな客層か、またまわりの店舗とかぶらないように考えてつくっていく。おまかせいただくことが多いんです」
現場仕事の合間に新しいプロダクトを考えたり、展示会の準備をしたり。カフェと大工、デザイナーとしての活動がシームレスにつながっている。
糸島生まれ、糸島育ち
神武さんは、これまで一度も糸島以外で暮らしたことがない。祖父が建具職人、父が家具職人という職人一家の長男。早いうちから家業を継ぐ意識はあった。
インテリア専門学校を出て1年間のフリーター生活。その間に初めて上京した際、都庁の展望階から見る光景に圧倒された。
「ずっと向こうまで天神(福岡の)が続いている(笑)、これは向いてないな、住めないな」と。
糸島で家業を続けながら「アコーデオン」を立ち上げたのは、時代の流れとともに大手取引メーカーとの仕事に限界が見られたから。
昼間の現場仕事を終えたあと午前2時までを「アコーデオン」の時間と決めて活動を開始。セミオーダーの家具製作を皮切りに、子どもが生まれてからは「子どもに作ってあげたいもの」も定番アイテムに加わった。
作家や店主たちとの交流の中に仕事のヒントが
糸島の魅力の一つは、多方面でいろんな経験を積んだ人たちが移住してきていること。横のつながりも強い。神武さんはそういった人たちとの交流からも刺激を受けている。
「糸島というそれほど広くない範囲で様々な方々とお会いできる機会に恵まれています。地元にいながら、どう活動し発信していけばいいのか、いろんなやり方のヒントをいただけるのがありがたいです」
そんなつながりから昨年、「THINNING」(シニング=間伐)という新しいイベントも生まれた。楽しいマーケットを通じて日本の森林が抱える問題を多くの人に知ってもらう催しだ。神武さんも主要メンバーの一人として取り組む。今年は10月14日(日)、3回目の開催予定。
神武さんは「いま糸島は、移住した人と、生まれた場所で暮らし続けていく決意を持った地元の人、両方と触れ合えるから魅力的なんです」と、素敵な糸島礼賛。水曜日に糸島へ出かけたら、喫茶「アコーデオン」へぜひ。