山を臨むセルフビルド 山下さんの旅は続く
山下宏史さん mountain*mountain w/cafe flat
甲斐駒ケ岳をのぞむ眺めの良い高台にその店はある。店主の山下さんがほぼ独力で作り上げた「mountain*mountain w/cafe flat」だ。
山下さんは、報道写真家として長らく世界を巡りながら各地の様々な料理を体験してきたヒトだ。東京時代には、パクチーを使った新しい調味料を開発したり、アジア料理の店を運営していた。
「景色のいいところで、のんびりとしてもらえる店を作りたかった。」そんな思いと家庭の事情が絡み合いつつ、たまたま不動産屋から紹介された山眺望の土地に惹かれて山梨県北杜市へ移住を決めたと言う。そして母屋の隣にセルフビルドで店の施工を行ったのだ。
スパイスの効いた料理が食べられる店が少ない北杜市。山下さんの作った「mountain*mountain w/cafe flat」は、たちまち人気店となり、営業時間中は移住してきた地元のヒト達で賑わう。タイ、ベトナム、中華系の料理がいまは中心だが、近い将来、まだ日本でなじみの薄い中近東やアフリカ料理なども提供していきたいと考えている。
そんな山下さんがセルフビルドした店は、天井が張られず小屋裏のトラス構造が表されたダイナミックな内観の建物だ。南側に大きく開いた窓からは、南アルプスがよく見える。
「プレオープン日を事前に告知してしまったので、そこに間に合わせるために椅子の造作はあきらめました」と、言う山下さん。つまり、建物だけではなく、店内にあるカウンターやテーブル、本棚などの造作家具も自作なのだ。詳しくお話を伺うと、基礎工事とクレーンが必要な建前以外は独力で、約1年半かけて作り上げたそうだ。ただしその内1年間は、東京に拠点があって月に何度かここに来て作業をするという頻度で、最後の半年に集中して進めたと言う。
これまでにこうした経験があったのか聞いたところ、「お店をやっていたので内装や壁の塗装をしたことはありましたが家作りは、はじめての体験です」山下さんはきっぱりと言った。カナダから取り寄せた材料群を使って、慣れない大工道具を駆使し、格闘しながら進めた作業だ。断熱施工や外壁の板張りなど分からない工程は、同時に進む母屋の工事をしていた大工さんの作業を見たり聞いたりして学習した。そして作業に必要な材料をJMART(北杜市長坂のDIYショップ)に通って入手して施工したとのこと。「あちらこちら精度は低いんですよ」と山下さんは言う。確かに、テーブルが多少ガタピシしたり、床材の長さが隅で揃っていなかったりするが、それもセルフビルドならでは、いい味わいだ。
「庭のたき火スペースと繋がる南側の斜面に張り出すデッキ、その下に部屋をつくりたい」目を輝かせながら語る山下さんの野望はまだ完結していない。
ところで、この店をはじめるにあたって勝算があったのか聞いてみた。
「都心で店をはじめるときには駅の乗降客数とか調べたりしますが、ここはそもそも歩いてるヒトがほとんどいない車社会で行動範囲が都会とは全く違うのです。」とは言え、山の中にも店があったり、家賃が発生しないことで採算など考えやすかったりで、なんとかなるかなと思ったと言う。ただそれよりも何よりも「楽しいか楽しくないか」という視点が大切なことだったのだ。
これまでランチタイムのみの営業だったが、ランチ後のカフェタイム営業も週末限定でもはじめた。「もっと近所のヒトにも気軽に使ってもらえるようにしたいんです。それと海外のヒトにも来てもらえる店にしたいですね。」
旅好きの山下さんにとって、店作りや料理づくりも旅のようなものなのかもしれない。いずれは一人二人店員がいなくても店が回る仕組みをつくって3ヶ月位旅に出れるようにしたい。あるいは、「mountain*mountain w/cafe flat」自体がどこかへ旅をするとか、そんな構想を語る山下さんの視線の先にはずっと遠くの景色が写っているに違いない。
五感で「旅」を味わう店・ https://reallocal.jp/21151
屋号 | mountain*mountain w/cafe flat |
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URL | |
住所 | 北杜市長坂町日野491−7 nagasaka*base |