特別講義「森岡督行の『畏敬と工芸』」レポート
東北の自然、信仰、人、工芸をめぐる活動がはじまります。
7月8日、山形市七日町のとんがりビルの多目的スペース「KUGURU」にて、特別講義「森岡督行の 『畏敬と工芸』のはなし」がひらかれました。
講義の様子(写真提供:(株)マルアール)
2014年から山形市の中心市街地を会場に隔年で開催されている「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」(主催:東北芸術工科大学)の第3回目が来年・2018年に開催されます。特別講義は、次回の芸術祭で展示発表する東北地方の工芸をリサーチする研究会の、市民研究員募集を兼ねたイベントでした。
「山形ビエンナーレ」の特長は、芸術祭開催までの準備期間中、地元・山形の歴史や文化のリサーチや、市民参加型の活動が継続的におこなわれること。
「山形ビエンナーレ2016」に出現した会期中限定のコンセプトショップ「山の形ストア」(写真提供:東北芸術工科大学)
森岡さんの研究会は、昨年の「山形ビエンナーレ2016」からはじまった「市プロジェクト」の一企画として、東北地方の生活に根ざした工芸品を調査・収集し、展覧会のような市を立ち上げます。そのテーマとなるのが「畏敬」。「崇高なものや偉大な人を、おそれうやまうこと」という意味があります。
山形ビエンナーレがはじまる3年前、2011年に起きた東日本大震災は、それまでの生活を一変させました。自然の脅威に直面した東北の地だからこそ、人と自然の関係を見つめなおし、人と自然のこれからの物語をアートやデザインを通して紡いでいくことが、山形ビエンナーレの出発点だったのです。
長い歴史の中で、自然災害は幾たびも私たちの生活に降りかかっていました。そうしてうまれた自然への畏敬の念が落とし込まれた工芸を探ることが「畏敬と工芸」研究会の目標です。
例えば、「サンスケ」という木偶があります。東北地方のマタギが山に入るとき、災いを避けるため集団の一員として連れて行った荒削りの木彫りの人形です。多人数で狩猟活動をおこなうマタギ集団が12人で山に入るとき、山の神の怒りに触れることを避けるための身代わりとして、必ず携行したといわれています。
「サンスケ」(写真提供:ギャラリーブリキ星)
研究会の講師をつとめる森岡督行さんは山形県寒河江市に生まれ、少年時代から切手やコイン収集に力を注ぐなど、身の回りのモノとそれらが担う物語に深い関心を寄せてきました。東京・銀座で「1冊の本を売る書店」がテーマの株式会社森岡書店代表であり、〈本〉と、その本にまつわる品々や作品を合わせた場づくりから、本を介した世界観の広がりを体現させています。
講義で話す森岡督行さん(写真提供:(株)マルアール)
サブ講師の柴山修平さんは、土着のものづくりを通して山形の魅力を伝えるデザインユニット「山の形」共同代表。つくり手の技術を活かし、今の暮らしに寄り添うものづくりを発信しています。
土地の歴史や風習、語り継がれてきた物語とともに工芸を見つめなおす活動に賛同する市民研究員とともに、「畏敬と工芸」研究会の活動がはじまります。
まずは今年12月の成果報告展、そして来年9月の「山形ビエンナーレ2018」での展示発表は、身近な工芸を通して、東北・山形の人と自然の物語を教えてくれるでしょう。
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※「畏敬と工芸」研究会 研究メンバーの募集は締め切りました。
研究会へのお問い合わせ:
山形ビエンナーレ事務局(東北芸術工科大学地域連携推進課)
Tel. 023-627-2091(担当=加藤・鈴木)
Email. biennale@aga.tuad.ac.jp
Web. http://biennale.tuad.ac.jp