島の“まあそい”風景を、未来に繋ぐために。/「能登島まあそい」
「田んぼが減って、人が減って。“能登島らしい風景”を支えていたものが今後加速して失われていくことは目に見えてわかっています。ここでなんとかしなければ」と話すのは、「能登島ペスカグリ・ネットワーク」の事務局である田口さん。
今回は、能登島の“普通の暮らしと風景”を、次世代へと繋ぐための活動「能登島 まあそい」をご紹介します。
「まあそい」とは、能登島の方言で、「豊かな・よく成長した・よく実っている」という意味だそう。例えば、ふくふくに育った赤ちゃんや、たっぷりと実る稲穂を褒めるときに「まあそいねぇ」といった具合で使うのだとか。なんと幸福な響き。。
能登島は石川県の能登半島に包まれるようにして浮かぶ島。面積は46.73キロ平方メートル、人口は約2,600人(平成30年)。半島の内浦に位置するため、「荒波・演歌の世界=THE日本海」のイメージとは異なり、天気の良い日などは湖面のように穏やか。
昭和57年に「能登島大橋」が架かり、観光地としても人気が出て年間100万人以上訪れるまでに。特に夏場の島の美しさは“石川の地中海”との呼び声もあるほど。
橋がかかっているので定義上「離島」ではないし、観光客にも事欠かないとくれば、日本各地で過疎化に悩まされる多くの「島」の中でも、例外的に好条件なのでは-…?
「だからこそ、住んでいると危機感を感じにくいんです。能登島でも高齢化は進み、田畑は荒れ始めている。島の暮らしが支えていた風景が、今少しずつ失われつつあります」と田口さん。「能登島まあそい」の運営母体である「能登島ペスカグリ・ネットワーク」を立ち上げたのも、そういった危機意識からだと言う。
「例えば集落の草刈りや行事のお弁当づくりなど、これまで島のことは基本的に住人がボランティアベースでやってきましたが、今の世代の人たちに、それではなかなか続かない。島の外に働きに出ている人がほとんどで、どうしてもお金で換算しちゃうんですよね。集落の行事に参加しないと出不足金を支払うことになるんですが、“それだったらお金で払った方が良い”となる。それはある程度仕方ないことだと思うんです」
「とはいえ、田んぼも人口も、徐々に減っていて、“能登島らしさ”が失われていくことは目に見えて分かっている。けれど同時に一方で、能登島には観光客がたくさん来てくれている状況もある。ならば、自分たちがのこしたい風景や風習を守るために、観光客の方にもお金を落としていってもらえる仕組みを作ったら良いのではと。事業化してお金が生まれるなら、若い人も頑張れると思う。そこを目指して発足したのが『能登島ペスカグリ・ネットワーク』です」
「能登島 まあそい」は「能登島ペスカグリ・ネットワーク」の活動の一環として、島外の人にも能登島の魅力を発信して行くためのプロジェクト。具体的な活動としては、ウェブサイトの運営や、能登島の風習を学ぶワークショップの開催、地元の産物を使用したプロダクト企画、そして実店舗としてのカフェ運営を行なっている。
「まあそいカフェは、もともとは浜茶屋なんです。これまでは集落で八ヶ崎海水浴場を運営していて、みんながどこか1日でも休みをとって浜茶屋を営業していく仕組みで維持されてきました。けれど、小さい集落なので人数が集まらなくなってきて、運営して行くことが難しくなって。とはいえ、この海水浴場が開けなくなると、能登島の夏の魅力がぐんと下がってしまう。そこで私達と半分半分で営業しませんか?という提案をしました」 と福嶋さん。
「人が減っていくので、できなくなることばかり増えていきます。時代の流れや生活スタイルが変わっていく中で、昔と同じことをそのままやりなさい、というわけにはいかないですよね。けれど、せめてそれらを大事だと思っていないと、消えていくことを良しとしてしまうと、ただ消えていってしまうことになる」
「まあそい」の活動は、“プロデュース”の名の下に、何かをまるごと作り替えたりするようなことはしない(プロダクト開発も、そっと「まあそいシール」を貼るくらい)。「足りていない」ところがあれば、みんながそれぞれできる形で補い合う、昔ながらの“お互い様精神”に通じるものを感じる。
「能登島に来たばっかりの頃、近所のおじいちゃんに『野菜買っとるんか、米買っとるんか』って聞かれて。そりゃ買うでしょ、って思ってたんですけど、そしたら余ったお米とか野菜をたくさんいただくようになって。魚が箱いっぱい職場に届くこともあったり。気づいたら食卓が全部いただき物でできてる日もあるんです。そういう能登島の『こんなん普通ですよ』を、島の外に発信できたら(福嶋さん)」
「逆にいつも困ってしまうんです。こんなにたくさんのものをいただいているのに、私達はこの人たちにあげられるものがない。一体何で返して行けばいいんだろうって」と田口さんは申し訳なさそうに笑う。
それぞれ忙しい本業がある中で「まあそい」の活動はもうすぐ3年目を迎える。そこには若手世代が、能登島の人、そして自然からもらった大きなものへ、自分たちができる形での「おかえし」の念があるのかもしれない。
「課題も見えてきたけれど、やぱり間違ってなさそうという手ごたえも感じています(田口さん)」。島の“まあそい”風景を自分たちで守るための試みは、まだ始まったばかり。
名称 | 能登島 まあそい |
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