全国で唯一。職人のための職人による大学校
「金沢職人大学校」
例えば、冬の土塀の薦(こも)掛けや庭木の雪吊り。町家の漆喰壁や畳、建具、黒瓦。
金沢の街並に、静かな品格を与えているのは、こういった住居にまつわる仕事の美しさだったりします。今回はその技術を伝承している、全国で唯一の“職人のための大学校”をご紹介。
「金沢職人大学校」は、1999年に開設された公益社団法人。石工科・左官科・大工科・瓦科・造園科・畳科・板金科・建具科、表具科の9つの本科に加えて、修復専攻科があります。
定員は50名。研修は月4回で19:00〜21:00の夜間に開催。これを3年間続けて修了となります。
この大学の特筆すべきところは、授業料が無料で、講師も研修生もすべて現役の職人であるということ。
大学開設を指揮したのは当時の金沢市長・山出保氏。市内のお宮の新築披露があった際、その場に参列していた職人の中に、金沢出身の職人が一人もいなかった事態を憂いての立案でした。
“古都”と称されることも多い金沢ですが、京都や奈良に比べて歴史は浅く(そもそも都が置かれたことがない)、街の規模も小さいので、歴史的建造物の数も限りがあります。本来であれば、職能として師弟関係の中で受け継がれていくべき技術も、仕事がないために、断絶しつつありました。
だからこそ、“学校”という形での技術の伝承が急務だったのです。
研修生は一般公募はされておらず、基本的には親方や先輩達からの紹介制。(そのため、金沢市で現職の職人さんが対象)ここで教えてもらった職人が、今度は次の世代に教えていく、というサイクルがようやく形成されてきました。
「この大学は、すべて職人の自主性に任せて運営されています。あくまでも市はサポート役で、カリキュラムも職人自ら作成したもの。学ぶ職人達も仕事後に通うのは大変でしょうが、そこには自主性があるんです」と語るのは金沢職人大学校・事務長の中田さん。
そして、金沢職人大学校のもうひとつの大きな特徴が、カリキュラムのひとつとして、謡(うたい)や能楽、茶道などの伝統文化の教室もあること。
金沢はかつて「空から謡がふってくる」ということわざがあるほど、市民にまで伝統文化・芸能が浸透していました。(ことわざは、雪吊りや屋根仕事をする職人さんが口ずさむ謡が、頭上から聞こえる情景の比喩)「職人は謡のひとつでも謡えんといかん」という山出前市長の強い意向もあり、技能研修とは別途、教室が設けられています。
技術の伝承だけでなく、職人としての文化的教養も醸成していく職人大学校。職人として身を立てたいとお考えの方、働く地の候補として、金沢も入れてみてはいかがでしょうか。