「山形市は歴史のお宝だらけです」
建築史家 志村直愛さん
「山形市を訪れたら、なにをしよう?」
「県外から友人が遊びにくるけど、どこを案内したらいいだろう。 山寺と蔵王温泉、その次は?」
そんな声から生まれた新シリーズ「山形でしたい5つのこと」。
各専門家のみなさんに、独自の視点で山形市を解剖していただき、オリジナルのToDoリストを作成していただきます。
一回目におたずねしたのは、東北芸術工科大学・建築・環境デザイン学科教授の志村直愛さん。建築史、都市景観、歴史をいかしたまちづくりを専門とし、神奈川県の横須賀、大磯や山形県市町村のプロジェクトを動かすほか、書籍の執筆や、テレビ番組に出演されています。
今回は前後編に分けて、歴史的・建築的視点からみた山形市についてのインタビューと、志村さんがおすすめする「山形でしたい5つのこと」 をお送りします。
それでは、“志村ワールド”全開の山形市ガイドをどうぞ!
──えっと…。山形市のお話の前に…その耳は…
あ、これですか? 学生へのメッセージです。
芸術系の大学では、自分で自分を売り込んだり、主張することがすごく大切なのですが、本校の学生たちはすごく素朴で控えめなんです。ぼく自身も美大の出身で、「どこまでバカをやるか」の世界を経験しているので、最初に芸工祭を見たときはビックリしました。「なんじゃこりゃ! おとなしすぎる!」と。
学生がもっと弾けやすくなるためには、まずは自分が見本を示さないと。というわけのコレです(笑)。
──インパクト大ですね(笑)。さて、志村先生はどのような経緯で山形にいらっしゃったのですか?
ぼくは鎌倉出身で、小さな頃から祖父母に連れられて神社仏閣を見たり、歴史的な風景の中で育ちました。その後は父親の転勤で逗子、横浜、福岡、広島、東京、札幌など、日本全国いろんな土地に移り住み、大学は東京藝術大学・建築科へ進学。大学院から本格的に明治〜昭和の近代建築史を勉強しました。
山形へ来たのは、師匠である都市計画の高野公男先生に呼ばれたことがきっかけです。それまで旅行でも来たことがなく、人生初の山形でした。
東京から山形へ週1回通うようになって、今年で18年目になります。
──山形市にはどんな印象をお持ちですか?
山形市は建築の歴史的にすごくおもしろい場所だと感じています。
理由のひとつは空襲で焼けておらず、台風や地震など天災も少ないので、古い建物が多く残っていること。
もうひとつは発展しすぎていないこと。経済活動が盛んなスクラップアンドビルドの都市部と比べて、ここは古いものの宝庫です。神社仏閣だけではなく、蔵や町家、農家もそう。昔の風景が残っているんですね。
──たしかに山形市を車で走っていると、お寺や神社、蔵など日常的に古い建築物を見かけます
そう、住宅地やまちなかに素朴に紛れているのがすごい。一番驚いたのは元木の石鳥居です。平安時代の石鳥居が住宅街の中にノーセキュリティーで立っている。足元をコンクリートで固められたことが理由で重要文化財止まりでしたが、あれは間違いなく国宝級(※)です。都市部だったらガラスケースに入れられますよ。
(※)国宝とは、国が指定した有形文化財(重要文化財)のうち、世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものであるとして国(文部科学大臣)が指定したもの
羽黒山五重塔にもビックリしました。周辺の杉林が塔に化けたような、当時の地産地消を物語った素晴らしい建築です。
ところが、あれもほとんどノーセキュリティー。ぼくが行ったときは冬だったせいか見物客がいなくて、ひと気がなかった。独り占めできる素晴らしさもありつつ、少し心配になりますね。
──保存やセキュリティの観点で、課題があるのでしょうか
そうですね。とても残念なのが、道路を広げよう!と簡単に文化財を壊してしまうこと。旅籠町のすばらしい西洋建築の洋菓子店〈西谷〉もあっけなく消えてしまってショックでした。
ぼくが芸工大に着任してから、この18年間で七日町周辺の風景もだいぶ変わりましたね。ちゃんと分布調査と価値評価をしてから、まちづくりをしないといけない。これは非常にもったいないことです(涙)。
もっと力を入れて調査すれば、山形市はお宝がわんさか出てくると思います。
もしかしたら、地元の目線からは、価値に気づくことが難しいのかもしれません。そういうとき、“よそ者”の専門家の目線として、ぼくやその他の教授陣がなにかご協力できることもあると思うんですよね。
山形の魅力は、のどかな自然と歴史的な文化財を「日常風景」として受け入れて生活していること。昔の日本のかたちが残っているんです。
もしかしたら、地元の人には無意識なことかもしれませんが、これはすごい価値ですよ!「毎週新幹線で山形へ通うのは大変ですね」なんて言われるのですが、ぼくから見ればこんなに恵まれた環境はありません。
山形市はやりがいのある街で、これからもっとおもしろくなると思いますよ。この環境を生かしてやってみたい企画がありますし、おすすめしたい場所もたくさんあります。
【志村直愛さん プロフィール】
1962年 鎌倉市生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。芸術学修士。
建築史、都市景観、歴史を活かしたまちづくりが専門。古代から近代まで、日本や西洋の人々と建築を巡る歴史を振り返り、未来に進むべき道を考える。豊かな歴史の蓄積を活かした都市景観形成やまちづくりを研究、支援。また、日本テレビ系列の番組「世界一受けたい授業」にも時々出演している。